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第13回吉川英治文学新人賞受賞作品
下手人は藤兵衛と折り合いの悪かった娘のお美津だという噂が流れたが…。 幼い頃お美津に受けた恩義を忘れず、ほのかな思いを抱き続けた職人がことの真相を探る「片葉の芦」。 お嬢さんの恋愛成就の願掛けに丑三つ参りを命ぜられた奉公人の娘おりんの出会った怪異の顛末「送り提灯」など深川七不思議を題材に下町人情の世界を描く7編。 宮部ワールド時代小説篇。
決して読み疲れることなく、むしろ心地よい感覚に酔いながら、スススと読み進めることができるし、軽快なリズムの割には、心にいつまでもジン…と余韻を残して読者の心を離さない物語が、これでもかというくらいに、この作品には詰まっている。 人の思いというのは複雑で、決して綺麗なものばかりではなく、時として醜くもあるというのに、この作品で描かれるそういった思いは、風が吹くかのように、ごく自然に心の中を通り過ぎて行き、なんとも後味が良い。 もちろん宮部さんの小技も随所に散りばめられおり、十分楽しんで読むこともできる。
深川の七不思議を題材として、まったく違う物語を展開している。 最初から七不思議すべての構想があった上で書かれたのではないだろうか。 そうでなくてはこうも首尾よくそれぞれの不思議がはまることはないと思う。 はまり方もそれぞれに違う。見事なものだと思う。 いい物語を紡ぐ人だなぁ、と改めて感心。
京極夏彦の言葉を借りれば「世の中に不思議な事など何もない」というように、妖しの現象は全て人の心が生み出す有様を宮部流に描いている。 例えば、鬼火と思ったものが、実は人の心に灯る温もりだったりと、作者の人間を観る優しさが縦横に出ている。
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